風のささやきに誘われて

イラストと詩で追う、あるハーフエルフの旅路

※関連書籍:『風のささやきに誘われて』2023年刊行イラスト集

いまは遠き故郷へのセレナーデ - The Serenade to Distant Native Place

いつかまた、はもうかなわないけれど

きみたちと違う僕を、きみたちは救った。

いつからか、はもうわからないけれど

きみたちと違う僕は、きみたちを愛した。

たしかに僕たちはあの場所にいた。

あのさびしくて穏やかな、

あの温かでせわしない、愛しい場所。

もう会えない、とは思わない。

これから出会うすべてがきっと、

きみたちをいっそう、愛しいものにするから。

愛しいものに出会う度に、

きみたちに会えるような気がするから、

愛しいものに出会う旅に、僕はでかけるよ。


ある弓使いのハーフエルフ - The Journey of an Archer Half-elf

これは、ヒトとエルフの狭間に在り、どちらにも属さない

気ままな旅人「ハーフエルフさん」の旅路をたどる絵物語

 

僕の片親はエルフ、もう片方はヒトらしい。

村のみんなに比べて耳が少し尖っているのは、エルフの血を継ぐからなんだって。

特段、みんなと違わないと思っていたけれど、

僕よりずっと早く大人になってしまう友達を見て、ようやくわかったんだ。

違うところはたくさんあるってこと。

でも、食べるものはだいたい同じ。

眠ったり、走ったりするのだって。

笑ったり、泣いたり、怒ったりするのだって。

だから探しに行くことにした。

ヒトと僕がどれくらい違うのか。エルフと僕がどれくらい違うのか。

僕が飛び出したのは、ただ、知りたいから。

この空が続く限り、大地が続く限り、

この命が鼓動を鳴らす限り、世界を知りたいんだ。

やすらかなる霊峰へのノスタルジア - The Nostalgia for Tranquil Sacred Peak

穏やかに目覚め、太陽とともに暮らす。

澄みわたった空気と、慌ただしい日々。

いつだって夢に見る、なつかしいあの場所。

雲で着飾る山並みは美しく、何年経っても

変わらぬ姿でそこに佇んでいるはずだ。

でも、どこかへたどり着くまでは、

まだ、さようなら。

 

いつかきっとまた、あの景色に――

きみたちに、会いにゆくよ。

竜の息吹と存在証明 - The Proof of Existence with Dragon's Breath

ここは「竜の牙」と呼ばれる洞窟。

よくよく話を聞いてみれば、そこに竜が棲むことを確かめた者はいないのだとか。

ただ、その異様な居ずまいを見れば、その名がつくのも無理はないと思える。その洞窟の中はひんやりとしていて、頭上の岩肌からひたひたと雫が滴り落ちては、足元の岩に不思議な柱をつくる。

でも、奥へ、奥へと進むうち、生暖かい風を感じる。

開けた場所へ一歩出ると、はるか地下から吹き上げる暖かい風。

ぶわっとマントを巻き上げようとする流れに逆らって、下の方を覗き込む。

――ああ、なるほど。

これは確かに、竜が放った息吹だ。


黄昏の飛竜のカレイドスコープ - The Kaleidoscope of a Wyvern at Twilight

飛竜の背に乗る日がくるなんて、思いもしなかったな。

なにせ、もういないと聞かされていたんだから。

あ、気を悪くしたならごめんよ。故郷じゃ縁がなくて。

きみたちはたしかに、こうして生きているんだね。

人を乗せて、荷物を載せて、遠い遠い旅路をひとっ飛び。

たくさん仕事をした後は、たくさんご飯を食べて、よく眠る。

きみたちは居場所を見つけて、ここで生きている。

僕はどうなんだろう。行きたい場所はある。帰りたい場所もある。

知りたいことがたくさんある。知らないことがたくさんある。

水平線のむこうに島が浮かんでいることだって、きみがここで生きていることだって、今日まで知らなかったんだから。

そうだ、まずは、きみのことをもっと知りたいな。

教えてくれるかい、きみの好きなもの、好きな場所。

あとは、そうだな――


清き秘境のユグドラシル - The Yggdrasil in Pure Secluded Region

たどり着いたのは、僕の魂の記憶に刻まれた大樹の森。

そこに住まうのは、僕の片親の家族たち。

いちばん会ってみたかったひとには、会えなかったけれど。

期待していたほど、歓迎はされなかったけれど。

その神秘を宿した森は美しく清らかで、

なんの欠点もないように思えた。

ああ、でも、少し不思議な気分だな。

ここにたどり着くための旅だったのに、

「ここが終わりではない」と感じている。

きっとここからが本当のはじまり。

 あてどない、果てもない旅の入り口。


青き天地のシンフォニーThe Symphony of Blue Heaven and Earth

旅を始めてどれくらい経ったろう。

たまには足を休めてみるのもいいだろうか。

そこに広がるのはただただ青い空と、

青い花に埋め尽くされた大地。

悠久をゆく風は、ひとときの友をつれてくる。

風が花びらを舞い上げて、交響曲を奏でる。

きみたちはきっと、きみたちのままでいて。

大地に根付いて、またその青色を咲かせて。

大空を駆って、またその羽ばたきを聞かせて。

――僕もこの足で、また歩いてゆくから。

僕でしかない、僕のままで。


はるかなる旅路のグランシャリオ - The Grand Chario for a Faraway Journey

僕はまだ、旅を続けている。理由なら簡単さ。

まだ、見ていないところがある。

まだ、出会っていないものがある。

まだ、知らないことがある。

僕はいつまでも完成しない、未熟者のままだから。

だからずっと旅の途中。

この世界の果てに届くか、僕の命が果てるまで。

それは気が遠くなるほどはるかな道のりで、

きっと灯火が消えるまでの、刹那の旅。

旅路に意味はなくとも、果てに答えがなくとも。

僕はただ、歩き続けてゆく。

ひとりぶんの呼吸と、熱と、鼓動だけを引きつれて。


陽気な星屑のグランドフィナーレ - The Grand Finale of Hilarious Stardust

極北の街についてすぐ、その噂を耳にした。

ここには、夜空にカーテンを降ろす神様がいるんだって。長くない昼を楽しみながら、夕闇が訪れるのを心待ちにする。

さあ、夜の帳が下りれば、星の舞台の幕開け。星屑たちはこぞって神話を歌い、数えきれないほどの英雄と女神の物語を繰り広げる。弓矢を使う、人間と馬の混じったもの。石を投げて巨人を打つ、勇敢な男の子。神に愛され追いかけられて、花に姿を変えた悲しい女神さま。

じいっと星空を見上げていると、そのまま神話の舞台が落っこちてきそう。きらきらと瞬いて、まっくらな夜空のじゅうたんを行進する彼らは、楽しそうだ。

ほら、夜空の神様がやってくる。不思議な色のヴェールを、ゆらり、ひらりとなびかせて。星座の物語はめでたし、めでたし。

カーテンコールはとびきり陽気に。


ハーフエルフさんについて- Summary about the Half-elf

ハーフエルフは、この世界のふたつの種族、ヒトとエルフの両方の血を引く混血種。この本で登場したハーフエルフは、ときたま「リウェン」という呼び名を持ちます。

若い個体のように見えますが、見た目よりもずっと長い時間を生きているようです。エルフは魔法という不思議な力を使うけれど、リウェンは魔法があまり得意ではないみたい。

育ったのがヒトの村だったので、魔法の使い方を教えてくれる先生がいなかったのですね。その代わり、周りの子供たちと一緒に弓矢の扱いを覚えたようです。

ただ、自覚はないものの、エルフの性質を受け継いでいる節もあります。ヒトには聞こえない「声」が、リウェンには聞こえているらしいのです。

リウェンはこれからも、世界の「声」に耳を傾け続けるのでしょう。